EUにおけるレチノール濃度の制限開始。私たちが知っておくべき背景と、これからの選び方

Beauty Policy

2025年11月1日から、欧州連合(EU)において化粧品に含まれるレチノール(ビタミンA)濃度の規制が適用されました。

これまで「エイジングケア」の領域で広く活用されてきた成分に対し、公的な枠組みが具体的な数値制限を設けたことは、成分の安全性と向き合う一つの指針となります。本記事では、この規制の概要と日本市場への影響、そして今後の向き合い方について、事実に基づき整理します。

1. EUにおける規制の概要と適用スケジュール

今回の規制は、欧州委員会が採択した「規則 (EU) 2024/996」によるものです。ビタミンA誘導体(レチノール、酢酸レチニル、パルミチン酸レチニル)に対し、製品カテゴリーごとに以下の配合上限が定められました。

  • 顔用製品:0.3%(RE:レチノール換算値)
  • ボディ用製品:0.05%(RE:レチノール換算値)

スケジュールとしては、2025年11月1日以降、この基準を満たさない「新製品」のEU市場への投入が禁止されました。既存製品についても、2027年5月1日までに市場からの撤退が義務付けられています。

ここで注目すべきは、規制の背景が「皮膚への刺激性」が主ではなく、「公衆衛生上の観点」である点です。欧州食品安全機関(EFSA)の調査により、食事やサプリメントから摂取するビタミンAの総量が許容量を超えつつある現状が明らかになりました。化粧品経由での吸収が、食事やサプリメントと合わせた総摂取量を押し上げる可能性があることを考慮した「予防的措置」と言えます。

そもそも、なぜビタミンA(レチノール)の過剰摂取が問題視されるのでしょうか。ビタミンAは「脂溶性(しようせい)」の性質を持ち、水溶性ビタミンとは異なり、余剰分が体外へ排出されず、主に肝臓に蓄積されやすいという特徴があります。適量であれば健やかな体と肌に不可欠な成分ですが、過剰に蓄積されると骨密度の低下や肝機能への影響といった全身の健康リスクを招く懸念があります。

今回のEUの決断は、こうしたビタミンAの「蓄積性」という性質を背景に、化粧品による皮膚吸収も総摂取量評価の枠組みに含めて管理しようという、一歩踏み込んだ予防措置と位置づけられます。

2. 日本の製品は、すでに「安全圏」にある

では、私たちが日本国内で購入できる製品はどうでしょうか? 結論から言えば、その多くが今回のEU基準よりもさらに厳しい安全基準の中で作られています。

日本には「医薬部外品(薬用化粧品)」という独自のカテゴリーがあります。2017年に資生堂が「しわ改善」の有効成分として純粋レチノールの承認を得た際のデータや、その後の業界動向を鑑みると、国内の医薬部外品における配合濃度は、公開情報や業界資料を見る限り0.01%〜0.1%程度で設計されているケースが多いとされています。

具体的な製品例を見てみましょう。

  • キールズ「DS RTN リニューイング セラム」 外資系ブランドですが、日本での展開にあたっては「0.1%」という濃度を公表し、低刺激設計であることを強調しています。
  • トゥヴェール 「レチノショット 0.1」 「0.1%」という数値を掲げ、高濃度ブームの中でも「毎日安心して使える上限」として提案しています。
  • 資生堂「エリクシール リンクルクリーム」等(医薬部外品) 日本で初めて承認を受けたパイオニアですが、その濃度は非公表ながら、厚労省の厳しい安全性審査をクリアした、効果と安全性が両立すると判断された範囲(※具体的濃度は非公表)で設計されています。

これらの製品は、EUの新基準である0.3%を下回る、極めて慎重な濃度で運用されています。一方で、一部の海外ブランド製品や医療機関専売品の中には、EU基準を超える濃度が存在するのも事実ですが、一般的な国内流通品においては、現時点で大きな懸念となるケースは多くありません。

3.代替品を探す必要はあるのか?

今回の規制を受けて、現在のお手入れを急遽変更したり、代替成分を早急に探したりする必要性はあるのでしょうか。日本の市場環境と製品特性を冷静に俯瞰すれば、急いで習慣を変えるべき理由は見当たりません。

  • 基準をクリアしている安心感:多くの国内製品は、すでにEU基準より低い濃度で十分な実績を上げています。
  • 日本独自の安全性:厚生労働省の承認を得ている医薬部外品などは、日本人の肌質に合わせた独自の審査を通過しています。

「高濃度であればあるほど良い」という風潮もありますが、大切なのは肌にとっての適正量。今回のニュースは、むしろ私たちが普段使っている製品の「安全性の高さ」を再認識する機会になったとも言えます。

結びに代えて:冷静な「事実」を味方につける

SNSなどで「レチノールが規制される」という断片的な情報だけが独り歩きすると、必要以上の不安が生まれます。しかし、一次情報(事実)に立ち返れば、その多くは杞憂であることが分かります。

私たちが今すべきことは、製品を買い替えることではなく、「自分が使っているものは、信頼できるメーカーが適切な基準で作ったものか」を一度確認すること。それだけで十分です。

溢れる情報に振り回されず、根拠のある事実を土台にして、自分に合った美容を淡々と続けていく。そうした理知的な選択の積み重ねが、結果として健やかな肌を育むことにつながるのだと考えています。


参考文献・出典一覧
欧州委員会規則 (EU) 2024/996(官報原文) Commission Regulation (EU) 2024/996 of 3 April 2024
SCCS(消費者安全科学委員会)によるビタミンAの安全性に関する最終意見書 Scientific Committee on Consumer Safety (SCCS) – Final Opinion on Vitamin A
資生堂:ニュースリリース(2017年3月1日) 日本で初めて、薬用有効成分純粋レチノールの「しわを改善する」新効能の承認を取得

コメント

タイトルとURLをコピーしました