2月10日、資生堂が発表した通期決算は、最終赤字という厳しい結果でした。
第3四半期の段階で通期赤字予想(約520億円)へと下方修正していたため、数字自体は“想定内”と受け止められています。しかし、本当に見るべきは赤字の大きさではなく、その中身です。
今回の決算は「悪化の確認」なのか、それとも「再生の起点」なのか。美容業界の視点から読み解いてみたいと思います。
“想定内の赤字”が意味するもの
第3四半期で大幅な下方修正が発表された時点で、市場は赤字を織り込んでいました。つまり今回の通期発表は、衝撃的な新情報というよりも、すでに提示されたシナリオの確定版に近い位置づけです。
赤字の主因は、米国スキンケアブランド「Drunk Elephant」の減損処理。買収時に見込んだ将来収益を下方修正し、大きな特別損失を計上しました。
ここで重要なのは、この損失が「本業の崩壊」を意味するわけではないという点です。減損は将来価値の見直しであり、キャッシュが流出するわけではありません。むしろ評価を一度リセットしたとも言えます。
ある意味で今回の決算は、「痛みを先送りしなかった決算」と見ることもできるのです。
減損のあとに残ったもの
では、減損を除いた本業はどうだったのか。
コア営業利益は一定の改善が見られ、構造改革による固定費削減の効果も徐々に数字に表れ始めています。売上は力強い伸びとは言えないものの、ブランド力が急激に毀損しているわけではありません。
特に日本事業は比較的安定しており、主力ブランドの存在感は依然として大きい。ラグジュアリー領域も完全に崩れたわけではなく、「再成長の芽」は残っています。
これは、美容業界を長く見ている読者ほど感じるはずです。資生堂はブランド資産の厚みが他社とは一線を画す企業です。赤字は経営判断の結果であって、ブランドの価値そのものが消えたわけではありません。
黒字転換予想は現実的か
注目すべきは、来期の黒字転換予想です。
もちろん、楽観は禁物です。米州事業の回復は簡単ではなく、中国市場もかつての勢いを取り戻したとは言い難い。グローバル環境も依然として不透明です。
それでも、今回大規模減損を計上したことで、来期以降は特別損失の重石が軽くなります。固定費構造も見直され、キャッシュフローも改善傾向にある。
つまり、黒字転換は“V字回復”というより、“負担を整理した上での再出発”というニュアンスに近いでしょう。派手さはないが、地に足のついた回復シナリオです。
増配が示すメッセージ
今回の決算で意外性があったのは、増配予想です。
赤字にもかかわらず配当を引き上げるという判断は、財務基盤への一定の自信がなければできません。これは単なる株主サービスではなく、「キャッシュ創出力は維持できる」という経営からのメッセージとも読めます。
再建には時間がかかる。しかし、資金面で行き詰まる状況ではない。
このシグナルは、投資家だけでなく、取引先や業界関係者にとっても意味を持ちます。
資生堂は再生フェーズに入ったのか
では結論として、資生堂は再生フェーズに入ったと言えるのでしょうか。
今回の決算は、「底打ち宣言」ではありません。米州の立て直し、中国の動向、ブランドポートフォリオの再構築など、課題は山積しています。
しかし同時に、
・減損を出し切った
・構造改革の効果が見え始めた
・来期黒字転換を掲げた
・増配という意思表示をした
という事実もあります。
これは守りに入った決算ではありません。むしろ、「整理を終え、次に進む準備を整えた決算」とも読めます。
美容業界は感性産業でありながら、同時に資本集約型のグローバルビジネスでもあります。ブランドの美しさだけでは企業は持続しません。今回の赤字は、その両立の難しさを示しました。
そして今、資生堂は問いに直面しています。
世界市場で戦い続けるのか。
あるいは、強い領域に集中するのか。
再生フェーズに入ったかどうかは、来期の数字が答えを出すでしょう。ただ一つ言えるのは、今回の赤字決算は終点ではなく、再設計の起点だったということです。
美容業界の象徴的存在である資生堂が、どのように次の物語を描くのか。
その行方は、業界全体の未来とも無関係ではありません。



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