「Jビューティ」を国家戦略産業へ――。
2026年5月18日、林総務大臣ら自民党の有志議員による「Jビューティ産業研究会」は、日本の美容産業の成長を後押しするため、林官房長官に提言書を提出した。背景にあるのは、韓国をはじめとする海外ブランドとの競争激化、そして厳格な広告表現規制によって“世界に向けた発信力”が制限されているという課題だ。
現在、日本の化粧品広告では、薬機法や景品表示法などに基づき、効果効能に関する表現が厳格に規制されている。
例えば、一般化粧品では「肌荒れを防ぐ」という表現は認められている一方、「ニキビを治す」という表現は使うことができない。シャンプーでも「髪を健やかに保つ」は可能だが、「髪を修復する」といった医薬品的表現は原則認められていない。
こうした広告表現規制は、消費者保護の視点から重要な役割を果たしてきた。一方で、SNS・グローバル市場時代においては、日本ブランドの競争上、不利に働いているとのしてきもある。
今回は、Jビューティ国家戦略家の議論を起点に、日本の化粧品広告規制の現状と改題、そして今後の方向性について整理する。
Jビューティ国家戦略化議論、その背景とは
今回の提言では、「Jビューティを国家戦略産業として位置づけるべき」との方向性が示された。
近年、日本の化粧品は品質や安全性、繊細な接客力などが海外から高く評価されている。特にインバウンド需要の回復以降、外国人観光客の間では、化粧品の購入だけでなく、ネイルやヘアカット、ドラッグストア巡りと言った“日本での美容体験”自体が価値になりつつある。
一方、世界市場では韓国コスメを中心に、SNSを軸とした情報発信が存在感を高めている。
TikTokやInstagramでは、短時間で“効果が伝わる”コンテンツが拡散されやすい。海外ブランドではBefore/After表現やインフルエンサーによるレビュー動画も一般化しており、“視覚的に魅力が伝わる表現”が市場競争力に直結している。
こうした中、日本ブランドは「品質は高いが、伝え方で不利」と指摘される場面も少なくない。その背景としてあげられているのが、日本独特の厳格な広告表現規制だ。
なぜ日本の化粧品広告は厳しいのか
日本の化粧品広告は、主に薬機法と景品表示法によって規制されている。
特に薬機法では、化粧品に認められている効果効能表現が限定されており、医薬品的な表現は禁止されている。なぜかと言うと、薬機法では化粧品はあくまで「人体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌を変え、または皮膚・毛髪を健やかに保つもの」でかつ「人体に対する作用が緩和なもの」と定義されているためだ。
つまり、化粧品は“保健や衛生、美化に関わり、作用がやさしいもの”であって、“治療”や“改善”を目的とした、医薬品的表現は原則として認められていない。
具体的な例を挙げると、化粧水では「肌荒れを防ぐ」は認められている一方、「ニキビを治す」は皮膚疾患に対する医薬品的表現としてNGとなる。これは、消費者に医療効果を誤認させないためのルールでもある。
また、景品表示法では、実物以上に著しく商品を優良に見せる「優良誤認表示」が禁止されている。近年では、SNS広告やインフルエンサー投稿においても、こうした規制への理解が不可欠になっている。
化粧品広告を支える「56項目」の存在
化粧品広告では、厚生労働省のガイドラインに基づき、表現可能な効果効能が認められている。いわゆる「56項目」と呼ばれるものだ。
代表例としては、
・頭皮、毛髪をすこやかに保つ
・毛髪にはり、こしを与える
・肌のキメを整える
・皮膚にうるおいを与える
などがある。
この56項目の範囲内で、企業や広告制作側はキャッチコピーや販促表現を設計しなければならない。
例えば
・毛穴への効果を訴求したい美容液の広告において
「毛穴を縮小する」はNGで「毛穴を目立ちにくく見せる」はOK
・エイジングケアを訴求したいクリームの広告において
「シワを消す」はNGで「ハリを与える」はOK
・育毛を訴求したいシャンプーの広告において
「髪を再生する」はNGで「髪を健やかに保つ」はOK
と言った具合だ。
つまり、どれほど技術力の高い製品であっても、“医薬品的効果”を想起させる表現は使用できない。
近年では、成分研究や処方技術の進化によって、実際の使用実感が従来の化粧品イメージを超えている製品も増えている。しかし広告上では、その魅力を直接的に表現しにくい場面も少なくない。
この「56項目」という枠組みは、日本化粧品業界の重要な広告文化を象徴する存在とも言える。
SNS時代、広告規制とのギャップは拡大
特に近年は、SNSで拡散されやすいワードと、薬機法上の表現規制とのバランスに悩むブランドやインフルエンサーも多い。
海外では、インフルエンサーによるレビュー投稿やBefore/After表現など、日本では規制対象になり得る“変化が視覚的に伝わる表現”が一般化している。
一方、日本ブランドでは薬機法や景表法への配慮から、表現が慎重になりやすい。
もちろん、消費者保護の観点から、日本では厳格なルールは重要な役割を果たしてきた。誇大広告を抑制し、安全性やエビデンス重視の姿勢を維持してきたことは、日本化粧品業界の信頼性にもつながっている。
しかし、短尺動画中心のSNSでは、「一目で効果が分かる表現」が拡散されやすい。その中で、日本ブランド特有の慎重な広告表現は、“信頼性”として機能する一方、グローバル市場ではインパクト不足につながる場面もある。
品質では評価されながらも“伝え方”で埋もれてしまう――。それが現在のJビューティの課題のひとつだ。


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